第3回周産期メンタルヘルスセミナー
周産期のボンディングとボンディング障害
日程 |
2017年10月1日 10:00-17:00 |
会場 |
社会福祉法人聖母会聖母病院5階会議室(西武新宿線下落合,西武池袋線椎名町) |
内容 |
教育講演:周産期ボンディングとボンディング障害の基礎 演者:北村俊則(北村メンタルヘルス学術振興財団) ワークショップ:周産期ボンディング障害への看護支援の方法 コーディネーター:大橋優紀子(こころの診療科きたむら醫院) 一般演題 |
一般 演題募集 |
周産期メンタルヘルスに関連する演題を募集します。発表時間は10分~20分を予定しています。一般演題応募用紙を財団ホームページよりダウンロードして電子メールにてお申し込みください。発表者の資格は問いません。内容を審査し、プログラム委員会において、発表をお断りすることもございます。 締め切り:8月31日
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参加費 |
3,000円 |
募集人員 |
募集人員(50名)に達し次第締め切ります |
申込書 |
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御登録:メールでお申し込みください。満席になり次第、締め切ります。
キャンセルポリシー:10 日前までのキャンセルは無料 以降前日までのキャンセルは参加費の50%を,当日のキャンセルは全額をキャンセル料として申し受けます。
一般演題
マターナルボンディングと母親の睡眠の質、うつ症状との関係―産後1ヶ月健診での横断的調査―
○下中 壽美(沖縄県立看護大学)
Relationship between Quality of Sleep, Depression and Maternal Bonding:A Cross-sectional Survey at One Month after Childbirth
Hisami SHIMONAKA (Okinawa Prefectural College of Nursing)
はじめに
マターナルボンディング(母親の子への情緒的な絆)は子の健全な発育のために重要である。多くの母親がマターナルボンディングを形成するのは産後 3 か月頃といわれるが、形成途中である産後早期のマターナルボンディングが虐待的育児の素因となること(北村, 高馬, 多田, 2014)や、産後 1~4 週時のマターナルボンディングが1 年後のマターナルボンディングへ影響すること (O'Higgins, Roberts, Glover, & Taylor, 2013) から産後早期のマターナルボンディングは重要である。産後 1 か月時のマターナルボンディングへ母親の睡眠の質、うつ症状、子どもの数が影響していることが明らかになった
(下中, 玉城, 2017)。しかし、前述の研究は横断調査で、各因子とマターナルボンディングの因果関係は明らかではなかった。そのため、本研究は、共分散構造分析を用いた再分析によりマターナルボンディングと各因子の因果関係を確認することを目的とした。
方法
1. 研究デザイン:相関関係的研究デザイン
2. 調査期間:2014 年 11 月~2015 年 3 月
3. データ収集方法
A 県内 3 か所の産科施設外来(1 か月健診)で無記名自記式質問紙調査を実施した。研究協力者は日本語の読み書きが可能で同意が得られた褥婦である。20 歳未満、精神科既往を有し現在内服中、1 か月健診当該児が早産児または低出生体重児、先天性疾患や障害を持つ、退院後から 1 か月健診までに母または子が入院した者は除外した。調査票の回収は個別封筒と回収ボックスで行った。調査票は 418 部配布し、410 部回収した(回収率 98%)。除外対象や無回答者を除いた本研究での分析対象者は 334 名であった。
主要な調査項目は、マターナルボンディング (Mother-to-Infant-Bonding Scale)、うつ症状 (Edinburgh Postnatal Depression Scale)、睡眠の質 (改変した Sleep Evaluation Questionnaire)、属性であった。
4. 倫理的配慮
本研究は、所属大学の研究倫理審査委員会(承認番号:14008)および研究参加施設Cの倫理審査委員会の承認を得て実施した。
結果

子どもの数はマターナルボンディングへ有意なパスを示し、マターナルボンディングはうつ症状へ有意なパスを示していた(図1)。
結論
産後 1 か月時の子どもへの否定的な感情がうつ症状へ影響すると予測されることから、産後早期からボンディング障害へ着目した支援を行うことが産後うつ予防の意味でも重要と示唆された。
研究において開示すべき利益相反(conflict of interest: COI)は無い。
参考文献
北村俊則, 高馬章江, 多田克彦. (2014, 11月) .新生児虐待の原因は産後の抑うつ状態ではなくボンディング障害である:岡山地区疫学調査から.第11回日本周産期メンタルヘルス研究会学術集会プログラム・抄録集 (p22), 埼玉県.
O'Higgins, M., St James-Roberts, I., Glover, V., & Taylor, A. (2013). Mother-child bonding at 1 year: Associations with symptoms of postnatal depression and bonding in the first few weeks. Archives of Women’s Mental Health, 16, 381-389.
下中壽美, 玉城清子. (2017). 産後1ヶ月時のマターナルボンディングへの影響要因―母親の睡眠の量・質、うつ症状、属性に着目して―. 日本母性看護学会誌, 17, 45-52.
周産期女性のソーシャルサポートはボンディング障害と抑うつ状態に対して保護的な働きを持つ:前向きコホート研究を用いた検討結果
○大原 聖子、岡田 俊、森川 真子、久保田 智香、中村 由嘉子、椎野 智子、山内 彩、宇野 洋太、尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科 精神医学分野)
目的
周産期女性が感じるソーシャルサポート(周囲からのサポート)の有無が、母から子へのボンディング(愛着)障害及び抑うつ状態に与える影響を、前向きコホート研究結果を用いて明確化する。
方法
2004 年 8 月から 2015 年 11 月まで一般成人妊婦 1031 人を対象に、妊娠初期と産後 1 ヶ月に、ソーシャルサポート、ボンディング障害、抑うつ状態各々の自記式質問紙である、Japanese version of the Social Support Questionnaire (J-SSQ)、Mother-Infant Bonding Questionnaire (MIBQ)、Edinburgh Postnatal Depression Scale (EPDS)、への回答を依頼し、494名(32.4+4.5歳)より全回答を得た。J-SSQ、MIBQ、EPDS、の各下位尺度を変数として設定し、各変数の関係性についてパスモデルを作成し、共分散構造分析を用いて解析した。
結果
妊娠中のサポート提供者の数の主観的な少なさは、(1)産後のボンディング障害を直接的に予測し(p < .01, r = -.17)、(2)妊娠中のボンディング障害の増強を経由して、産後のボンディング障害を間接的に予測した(p < .01, r = -.19)。更に、(3)産後の抑うつ状態を直接的に予測し(p < .01, r = -.10)、
(4)妊娠中の抑うつ状態の増強を経由して、産後の抑うつ状態を間接的に予測した(p < .01, r = -.26)。
一方、妊娠中のサポートに対する主観的な満足度の低さは、(5)妊娠中の抑うつ状態の増強を経由して、
産後の抑うつ状態を間接的に予測した(p < .05, r = -.13)。(6)ボンディング障害と抑うつ状態は妊娠初期から産後 1 ヶ月にかけてそれぞれ予測的影響を受けた(p < .01, r = .36; p < .01, r = .78)(図1)
倫理的配慮:本研究は名古屋大学医学部生命倫理審査委員会の承認事項に則り、文書での説明と同意を得て、個人情報保護に配慮して実施した。
・筆頭演者の利益相反:開示すべき事項なし

図1 ボンディング障害・抑うつ状態・
ソーシャルサポートの関連についての逐次モデル
妊娠の計画性と妊婦のアタッチメントスタイルとの関連-パスモデルによる因果の検討-
○藤田 佳代子(目白大学)、大月 恵理子(埼玉県立大学)
Kayoko FUJITA (Mejiro University), Eriko Otsuki (Saitama Prefectural University)
はじめに
妊娠の計画性は、妊娠の受容に対する態度への影響をはじめ、妊娠中の生活行動、胎児への愛着形成、妊婦のQOL、育児期における夫婦関係、さらに、夫の対児感情にまで関連する因子である。
また、妊婦のアタッチメントスタイルは、成育歴を反映して形成され、周囲の人間関係への認知のスタイルともいえる。夫婦の関係性の再構築や我が子との新たな関係を築いていく周産期において、その行動や心理面を特徴づけ、メンタルヘルスに影響する要因のひとつである。
妊婦や褥婦にアタッチメントスタイルに関連した調査研究を進める際、アタッチメントスタイルの測定と同時に、妊娠の計画性については後方視的に質問をしていることがほとんどであるが、この場合、同時点での調査であり因果の関係は断定できない。そこで、今後のアタッチメントスタイルに関連する研究に示唆を得ることを目的とし、妊娠の計画性と、妊婦の夫に対するアタッチメントスタイルとの関連について、パスモデルを用いてその因果について検討した。
方法
調査期間 H 28 年 7 月~H 29 年 1 月、埼玉県内の 4 つの病産院に通う妊娠経過に大きな異常のない妊娠26週以降の初産婦に研究協力依頼し、同意を得られた方に自己記入式質問紙調査を実施した。
アタッチメントスタイルの測定尺度は Relationship Questionnaire (RQ: Bartholomew, & Horowitz, 1991) を用いた。本研究では、夫に対するアタッチメントスタイルについて調査した。属性として、妊娠の計画性、妊娠週数、年齢、就業の有無、学歴、現在の経済状態に対する自覚、妊娠の既往について質問した。
なお、本研究は所属施設倫理審査委員会の承認(承認番号28501)を得て実施した。
利益相反はない。
結果
376 部配布、334 部回収(回収率 88.8%)、分析対象 321 部(有効回答率 96.1%)、平均年齢 31.9(SD 4.9)歳、平均妊娠週数 32.8(SD 2.9)週、計画的妊娠(希望した妊娠) 262 名(81.6%)、予期せぬ妊娠 59 名(18.4%)であった。

図1 本研究のモデル
最終的なパスモデルの適合度は、χ2乗検定 = 2.66、自由度 = 4、CFI =.970、RMSEA = 0.072であった。妊婦のアタッチメントスタイルは、妊娠の計画性に有意に影響していたが、妊娠の計画性からアタッチメントスタイルへのパスは有意ではなかった。妊婦のアタッチメントスタイルが妊娠の計画性に影響を及ぼすという因果関係が確認された。
考察
アタッチメントスタイルの測定と妊娠の計画性を同時に調査した場合、アタッチメントスタイルが妊娠の計画性に影響しているという時系列が成立することが示唆された。
参考文献
Bartholomew, K. & Horowitz, L. M. (1991). Attachment styles among young adults: A test of four-case category model. Journal of Personality and Social psychology,61, 226-244
助産師を中心とする看護職に対する心理支援技法研修が「こころに配慮する能力」に与える影響について
○齋藤 知見1)2)3)、山岸 由紀子1)3)、北村 俊則1)3)4)5)
1)北村メンタルヘルス研究所, 2)順天堂大学産婦人科, 3)こころの診療科 北村醫院, 4)北村メンタルヘルス学術振興財団, 5)名古屋大学医学部 精神医学分野・親と子どもの診療学分野
Psychotherapy Training on Psychological Mindedness in a Japanese Nurse Population: Effects and Personality Correlates and training on psychological mindedness
Tomomi SAITO, Yukiko YAMAGISHI, Toshinori KITAMURA
はじめに
心理援助を行うにあたり、患者の状態を心理的なものであると認識する能力の獲得は不可欠である。
目的
周産期メンタルヘルス技術習得のための研修を実施する際、研修参加者の「患者の状態を心理的なものであると認識する能力」を研修前後で測定し、研修がこうした能力を向上させうるかを調査した。
方法
対象 46 人(助産師 25 人、保健師 18 人、看護師 2 人、看護学生 1 人)に対し、 2007 年に心理援助技法研修を 5 回行った。研修は(1)各自の自習(2)講義(3)ロールプレイによる技術の習得を主な柱とし、内容は産後うつ病予防介入プログラム (Zlotnick, et al., 2001) を使用。心理的理解力を Psychological Mindedness Scale (PMS: Conte, et al., 1990) で、パーソナリティは Temperament and Character Inventory (TCI: Cloninger,et al., 1994) で、それぞれ研修の前後で測定した。
本研究は熊本大学医学部の倫理審査を終了し、利益相反(conflict of interest: COI)はない。
結果
研修前後で、PMS 得点は有意に上昇した。また TCI の下位尺度では損害回避 (Harm Avoidance; HA) が低下し、持続 (Persistence; P) および自己志向性 elf-Directedness; SD) が上昇した。
考察
心理的理解力は心理支援技法に特化した研修により上昇する。スタッスの心理理援助能力向上に繋がるかもしれない。

図 共分散構造分析(PMS, SD, HD)
参考文献
Cloninger, C. R., Przybeck, T. R., Svrakic, D. M., & Wetzel, R. D. (1994). The Temperament and Character Inventory (TCI): A Guide to its Development and Use. Washington University, St Louis, Missouri: Centre for Psychobiology of Personality.
Conte, H. R., Plutchik, R., Jung, B. B., Picard, S., Karasu, T. B., & Lotterman, A. (1990). Psychological mindedness as a predictor of psychotherapy outcome: A preliminary report. Comprehensive Psychiatry, 31, 426-431.
Zlotnick, C., Johnson, S. L., Miller, I. W., Pearlstein, T., & Howard, M. (2001). Postpartum depression in women receiving public assistance: Pilot study of an interpersonal-therapy-oriented group intervention. American Journal of Psychiatry, 158, 638-640.